結論:模写(トレース)は「練習はOK寄り」でも「一般公開は原則慎重」
デザインの模写(トレース)は、上達のための練習として有効です。ただし、模写作品をそのままポートフォリオに一般公開するのは、著作権侵害(複製・公衆送信・翻案など)のリスクがあるため、基本的にはおすすめしません。
- 学習用(手元だけで練習):比較的トラブルになりにくい
- 限定公開(添削・面談用に共有範囲を絞る):リスクは下がるがゼロではない
- 一般公開(SNS / Notion公開URL / foriio等):権利者の許諾がない限りリスクが上がる
この記事では、著作権の基本(私的使用・引用・公衆送信)を踏まえた公開の判断ラインと、模写を「安全側のオリジナル作品」に昇華させる手順をまとめます。なお、ここでの説明は一般情報であり、個別ケースの適法性を断定するものではありません。迷う場合は公開を控える/権利者に許諾を取る/必要に応じて専門家へ相談してください。
最初に整理:模写・トレース・引用は別物
「模写なら大丈夫」「引用ならOK」という話が混ざると判断がブレます。ここだけは最初に切り分けておきます。
- 模写:参考デザインを見ながら、自分で再現する
- トレース:画像などを下敷きにして“なぞる”。完成物が原作に近くなりやすい
- 引用:批評・研究などの目的で、必要な範囲で他人の著作物を用いる(要件あり)
ポートフォリオで「完成作品として見せるため」に模写作品を載せる行為は、一般に引用の要件(主従関係など)を満たしにくいと考えておくのが安全です。
重要:「模写です」と書いても、免罪符にはなりません。
表記は誠実さとして有効でも、「許諾が不要になる」わけではない点に注意してください。
なぜ「ネット公開」で扱いが変わるのか:私的使用ではなくなりやすい
学習の模写が問題になりやすいポイントは、作る行為そのものよりアップロード(公開)です。インターネット上で第三者が見られる状態にすると、著作権法上「公衆送信(送信可能化を含む)」の論点が出ます。
私的使用(個人的・家庭内などの限られた範囲)として認められるケースがある一方で、SNSやポートフォリオのように不特定多数が閲覧できる状態は、私的使用の範囲を超えやすい点が、権利情報を扱う公的・準公的な解説でも繰り返し注意されています。
まずは「手元の練習」と「ネット公開」は別物、という前提で運用するのが一番事故が少ないです。
判断基準:模写作品は「公開OK」ではなく「安全度」で考える
「公開していいか」を白黒で断定しようとすると迷いが増えます。初心者が運用で困らないよう、ここでは安全度(リスクの低さ)で整理します。
| 安全度 | 状態 | おすすめ対応 |
|---|---|---|
| 安全度:高め | 参考はしたが、元デザインの「本質的な特徴(創作性)」に依拠せず、構成・配色・タイポ・UIを再設計している。 コピー/写真/ロゴ/図版も自作(または適法に利用できる素材)に差し替え、なぜこの形にしたかを自分の言葉で説明できる。 ※単なる差し替えではなく「デザイン意図を自分で再構築」していることが前提 | 通常のポートフォリオ作品として掲載(制作意図・工夫点・改善点を説明) |
| 安全度:中 | 参考元が想起できる程度に似ている(レイアウトや配色の組み合わせが近い)。 学習目的・添削目的が中心。 | 一般公開は避け、限定公開で共有。必要ならいつでも非公開にできる運用にする |
| 安全度:低め | トレースでほぼ同一/固有のコピー・写真・ブランド要素(ロゴ等)まで近い。 一般公開して「作品」として見せる形。 | 公開しない。どうしても必要なら権利者の許諾を取る |
ここで一番大事なのは、「差し替えたから大丈夫」と短絡しないことです。レイアウトや配色、要素配置の組み合わせに元作品の創作性が残っている場合、翻案(いわゆるアレンジ)に関する権利の問題がゼロとは言えません。だからこそ、公開を前提にするなら“別物として再設計できているか”を軸にします。
安全なポートフォリオ運用:模写を「載せない」ではなく「扱いを分ける」
学習中は模写が多くなりやすいので、「全部ダメ」としてしまうと手が止まります。現実的には、模写の扱いを3つに分けるのが最も安全で、運用もしやすいです。
運用A:一般公開は「オリジナル作品だけ」にする(最も安全)
Notion(公開URL)/ foriio / SNSなど、誰でも見られる場所にはオリジナル作品のみを掲載します。模写で身につけた型は、次の「自主制作(架空案件)」に変換して出すのが強いです。
未経験の評価は、作品数よりも「目的を設定して設計できるか」「工夫点を説明できるか」「改善できるか」が見られやすい傾向があります。模写が10件あるより、オリジナルのLP1本を作り込む方が刺さることも珍しくありません。
運用B:模写は「限定公開」で添削用途に絞る(現実解)
模写を見てもらう必要があるなら、一般公開ではなく限定公開に寄せます(メンター、クローズドコミュニティ、面談での画面共有など)。
- URLは限定共有(パスワード、共有範囲の限定、検索エンジンに載せない設定)
- ページ冒頭に「学習目的の模写」である旨を明記(※免罪符ではない)
- 削除や非公開に即対応できる導線を確保
運用C:許諾が取れたものだけ「模写として」掲載する(理想だが手間あり)
権利者から「ポートフォリオ掲載OK」の許諾が取れた場合は、条件付きで掲載できる可能性があります。許諾を取る場合は、範囲・期間・掲載場所・表記ルールを明確にし、やり取りは文面で残すのが基本です。
許諾(OK)を取りたいときの依頼項目
許諾依頼は、相手が判断しやすい形にするほど通りやすくなります。最低限、次をセットで伝えます。
- 掲載場所:Notion公開URL / foriio / SNS など
- 掲載物:完成画像のみ/制作プロセスも含むか
- 公開範囲:一般公開か、限定公開か
- 目的:学習記録/就職活動の提出資料/案件獲得 など
- 期間:いつまで掲載するか
連絡先が分からない、返事がない、許諾が取れない場合は、無理に公開しないのが安全です。次の章の「オリジナル化」を使えば、学習成果は十分に公開可能な形へ変換できます。
【解決策】模写を「安全側のオリジナル作品」に変える7ステップ
模写が多い学習者に一番おすすめなのが、「模写→オリジナル化」です。模写で得た学びを活かしつつ、公開リスクを下げ、ポートフォリオ価値を上げられます。
- ステップ1:参考の良い点を言語化(余白、見出し階層、CTA配置、視線誘導など)
- ステップ2:業種とターゲットを変える(英会話→ジム、コスメ→転職スクールなど)
- ステップ3:コピー(文章)をゼロから作り直す(同じ言い回しを避ける)
- ステップ4:写真・イラスト・アイコンを差し替える(素材サイトの利用条件も確認)
- ステップ5:配色ルールを作り直す(アクセントの役割、背景のトーン、文字色など)
- ステップ6:タイポとUIのルールを作り直す(サイズ階層、角丸、罫線、影、ボタン形状)
- ステップ7:最後に「参考元の本質的特徴に依拠していないか」を自己チェックする
ポイントは「差し替えた」ではなく、「自分の意図で再設計した」と言える状態に持っていくことです。これができると、選考側・依頼側にも「再現性」が伝わり、模写よりも評価が取りやすくなります。
よくある失敗5選と回避策
失敗1:トレース作品を“制作実績”として一般公開する
回避策:一般公開はオリジナル中心に。模写は限定公開に寄せ、必要があればいつでも非公開にできる運用にします。
失敗2:企業ロゴやブランド名、固有コピーをそのまま使う
回避策:ロゴ・ブランド名・固有コピーは差し替えます。架空案件なら架空名・架空サービスに統一しましょう(商標・不正競争など別の論点も避けやすくなります)。
失敗3:「引用なら大丈夫」と思って完成画像を大きく載せる
回避策:引用は要件があります。ポートフォリオのような自己の作品集で、他人の作品をメインに見せる形は、引用として成立しにくい前提で運用するのが安全です。
失敗4:Notionを公開している自覚がなく、URLが拡散する
回避策:共有設定を見直し、模写は限定共有に。検索エンジンに載る設定は避けます。
失敗5:指摘や削除要請が来ても放置する
回避策:来たら即非公開。誠実に対応します。そもそも炎上を避けるため、一般公開はオリジナル中心に寄せておくのが最善です。
具体例:模写が15個ある学習者が、今週中にポートフォリオを公開するには
例として「バナー模写10個+LP模写5個」を持っていて、就職活動のために早く公開したいケースを想定します。
- やらない:模写15個をそのままNotion/foriioで一般公開
- やる:LP模写を1本選び、業種・ターゲット・コピー・画像・配色・UIを作り直してオリジナルLPにする
- やる:バナーは「オリジナル化バナー」を3〜6枚だけ公開(模写は手元保管 or 限定公開で添削用)
- やる:公開作品には「目的」「工夫点3つ」「改善点」を添えて“考えた跡”を見せる
公開作品が少なくても、胸を張って見せられる形になり、トラブルも避けやすくなります。模写は学習に使い切り、公開はオリジナルに寄せる。これが一番長く戦える運用です。
まとめ:チェックリストと次にやること
模写(トレース)は学習に有効ですが、一般公開は原則慎重が基本です。「模写です」と書いても免罪符にはなりません。公開するなら、参考元の本質的特徴に依拠しない形へ再設計し、オリジナルとして説明できる状態を目指しましょう。
公開前チェックリスト(安全側)
- 一般公開するのはオリジナル作品だけになっているか?
- ロゴ・ブランド名・固有コピー・写真素材は差し替えたか?
- レイアウトや配色の組み合わせに、参考元の「本質的特徴」が残っていないか?
- 模写を共有する場合、限定公開にして共有範囲を絞ったか?
- 削除要請が来たとき、すぐ非公開にできるか?
次にやること(3ステップ)
- ステップ1:模写作品を「手元用(非公開)/添削用(限定公開)/公開用(オリジナル)」に仕分けする
- ステップ2:模写LPを1本選び、コピー・画像・配色・UIを再設計して“オリジナル化”する
- ステップ3:Notion/foriioで公開するのはオリジナル中心にし、作品説明(目的・工夫点3つ・改善点)を添える
参考リンク(公式・準公式)
公開時の根拠確認として、最低限ここは目を通しておくと安心です。
