「雑所得」と「事業所得」の境界線は、開業届の有無で自動決定されません。税務上は、継続性・反復性・営利性・規模・そして帳簿書類の記録保存状況などを総合して“実態”で判断されます。
副業ブロガー・せどり(転売)は、始めたばかりだと雑所得(業務)に寄りやすい一方、事業としての実態が強い場合は事業所得として説明できる余地もあります。
この記事では、会社員の副業が伸びてきた人向けに、次を「迷わない手順」で解説します。
- 雑所得と事業所得の違い(何が変わる?)
- 国税庁の考え方に沿った判断ポイント(チェックリスト化)
- ケース別:副業ブロガー/せどりはどっち寄り?
- 安易な「事業所得化」の税務リスク(否認→修正申告の可能性)
- 税務リスクを下げるために、今日からできる実務(帳簿・証憑・口座分離)
※本記事は一般情報です。最終判断に不安がある場合は、税務署や税理士への相談を推奨します。
なぜ今「事業所得 vs 雑所得」で迷う人が多いのか
「副業の確定申告、事業所得にすれば青色申告で節税できるって聞いたけど本当?」
「雑所得だと損をする?でも、税務署に否認されるのは怖い……」
副業の売上が伸びてくると、必ずぶつかるのが「事業所得 vs 雑所得」問題です。ネット上には「開業届を出せば事業所得になる」といった情報もありますが、これは半分正解で半分誤解を招きます。
税務上で見られるのは、届出よりも「実態として事業と言えるか」。ここを読み違えて、赤字を損益通算したくて安易に事業所得で申告すると、後から区分否認されて追徴・修正申告になるリスクが出ます。
目先の損得よりも、まずは「否認されにくい申告」を目指す。そのために、判断基準と、実務の整え方をセットで理解しましょう。
雑所得と事業所得の違い:何が変わる?(損得よりリスク管理)
まずは“違い”を、ややこしい用語抜きで整理します。ポイントは主に3つです。
1)赤字の扱い(損益通算できるか)
事業所得は、条件の範囲で他の所得と損益通算できる対象になり得ます。一方で、雑所得(業務)で生じた赤字は、原則として給与など他の所得と相殺(損益通算)できません。
副業初期は、広告費・外注費・仕入れ・ツール費で赤字が出ることもあるため、「事業所得にしたい」と考える人が増えます。ここが一番“欲”が出やすいポイントです。
2)青色申告を検討できるか
青色申告は「帳簿を整えて正しく申告する人向けの制度」で、要件や手続き(申請期限など)があります。一般に、青色申告は事業所得(など)で検討されることが多いです。
ただし、「青色にしたいから事業所得」という逆算は危険です。実態が雑所得なのに事業所得で申告すると、後で否認される火種になります。
3)帳簿・書類保存の期待値(税務リスクに直結)
事業所得か雑所得かで議論する前に、リスク管理として重要なのが帳簿と証憑(領収書・請求書・明細等)です。
加えて、雑所得(業務)でも、一定の場合に「現金預金取引等関係書類」の保存が求められるルールがあります(前々年の業務収入が一定額を超える場合など)。
ここを知らずに「雑所得だから適当でOK」とすると、後で説明が苦しくなります。
【簡易診断】あなたの副業はどっち寄り?所得区分チャート
最初に“立ち位置”を把握しましょう。これは目安です(最終判断は実態の総合判断)。
[Q1] 取引の記録(売上・経費のメモ)と、証憑(領収書・明細)の保存をしている? ├─ No → 雑所得(業務)寄り(まず実務の整備が先) └─ Yes ↓ [Q2] 継続的・反復的に収益化を狙って活動している?(毎月/毎週など、習慣的に運用) ├─ No → 雑所得(業務)寄り(単発・趣味に近い) └─ Yes ↓ [Q3] 赤字が続いても改善の取り組みをしている?(収入増・経費見直し・分析・導線改善など) ├─ No → 雑所得(業務)寄り(営利性が弱いと見られやすい) └─ Yes ↓ [Q4] 規模感が出ている?(作業時間、取引量、外注・在庫、売上推移など) ├─ Yes → 事業所得の可能性が高まりやすい └─ No → グレーゾーン(事業性を強める実務整備がカギ)
このチャートで「グレーゾーン」にいる人が一番多いです。ここから先は、税務上の判断ポイントを“チェック項目”に落として説明します。
判断基準の考え方:社会通念を「継続性・規模・帳簿」に分解する
「社会通念」と言われるとフワッとしますが、実務では次の観点で総合判断になります。
税務上、説明力が上がるチェック項目
- 営利性:利益を得る目的でやっているか(趣味の延長ではないか)
- 継続性・反復性:単発ではなく、継続的に繰り返しているか
- 規模:売上の大きさだけでなく、作業時間・取引量・外注・在庫・運用体制など
- 企画遂行性:計画して改善しているか(分析、導線改善、仕入れ戦略、再現性)
- 帳簿書類の記録保存:売上・経費が追える形で記録され、証憑が残っているか
よくある誤解:「開業届を出せば事業所得」ではない
開業届は「事業を始めた届出」であり、出したこと自体は悪いことではありません。ですが、所得区分が“自動で”事業所得になるわけではない点が重要です。
読者が一番つまずくのはここです。実態(上のチェック項目)が伴わないのに、区分だけ事業所得に寄せると、あとで説明が苦しくなります。
【重要】安易に事業所得で申告するリスク:否認→修正申告→加算税の可能性
ここは“怖がらせたい”のではなく、読者の資産を守るために冷静に書きます。
起きること(典型パターン)
- 副業が赤字の年に、事業所得として申告
- 給与と損益通算して、所得税が下がる(または還付になる)
- 後日、税務調査等で「実態は雑所得(業務)」と判断される
- 過去の損益通算が取り消され、追加の税金を納める必要が出る
- 状況により、過少申告加算税や延滞税などが発生する可能性がある
「赤字だから事業所得にしたい」は一番危ない動機
事業所得にしたい理由が「節税(損益通算)」だけだと、実態が弱いまま区分だけ動かしがちです。
安全策は逆で、先に実態(帳簿・継続性・改善)を固め、あとから区分が付いてくる状態を作ることです。
ケース別:副業ブロガー・アフィリエイトはどっち?
ブログは、初期は雑所得(業務)寄りになりやすく、伸びるほど事業性が出やすい副業です。
ケースA:不定期更新、収益は少額(趣味に近い)
- 更新が不定期/たまに記事を書く
- ASPの報酬が単発・少額
- キーワード選定・導線設計などの運用が未整備
- 帳簿がなく、経費も“なんとなく”
この場合は、実態として「事業」よりも“副収入の発生”に近く、雑所得(業務)で整理するほうが自然です。
まずは、帳簿(収支メモ)と証憑保存から始めましょう。
ケースB:毎月継続運用、分析・改善・外注も活用(事業性が強い)
- 毎週/毎月の更新・リライトが習慣化
- KW選定、順位チェック、導線改善など改善活動がある
- 外注・編集・デザインなど、運用体制がある
- 売上推移を見て打ち手を変えている
- 帳簿・証憑・入出金の整備ができている
ここまで整うと、事業性が強くなります。とはいえ、区分は総合判断なので、「実態を説明できる状態」を作ることが最優先です。
ケースC:案件(寄稿・監修・PR)が中心
単発案件が中心なら雑所得(業務)寄りになりやすく、継続的に受託して運用が安定しているなら事業性が増します。
ブロガーは「広告収益」「案件収益」が混ざるので、収益の種類ごとに入金根拠(明細)を残すのが重要です。
ケース別:せどり・転売はどっち?(メルカリ/フリマ含む)
せどりは“反復性”が出やすいので、実態次第で事業性が強くなりやすい領域です。
ケースD:不要品の処分が中心(断捨離)
生活用品の処分が中心なら、そもそも「せどり事業」とは別物になりやすいです。
ただし、扱う物や頻度・目的によって論点が変わることがあるため、グレーを感じる場合は専門家へ相談が安全です。
ケースE:仕入れて販売を反復、在庫・発送の運用がある
- 仕入れと販売を継続して反復
- 在庫管理・発送・顧客対応などのオペレーションがある
- 粗利、回転率、仕入れ基準など改善活動がある
- 帳簿と証憑が揃っている
この状態なら事業性が強くなりやすいです。特にせどりは、仕入れの根拠(領収書・納品書・決済明細)が命です。ここが弱いと、必要経費の説明が崩れます。
ケースF:売上が伸びた(保存ルールに注意)
雑所得(業務)でも、条件によっては「現金預金取引等関係書類」の保存が求められるルールがあります。
一方で「売上が小さいから何も残さなくていい」と思い込むのは危険です。義務の有無に関わらず、税務署に説明できる形で、領収書・請求書・明細は保管しておくのが安全です(捨てない)。
税務リスクを下げる実務:結局、勝つのは「帳簿・証憑・口座分離」
所得区分の悩みを“現実的に”解決する順番はこれです。結論:先に実務、後で区分。
1)帳簿はスプレッドシートでOK(まず型を作る)
最低限、これだけ書けば申告の骨格になります。
- 日付
- 取引内容(売上/経費の内訳)
- 金額
- 入出金方法(口座/カード/現金)
- 証憑の保存場所(紙/PDF/スクショ/CSV)
ポイントは「後から追える」こと。完璧な簿記より、継続して残すほうが強いです。
2)証憑(領収書・請求書・明細)を“1か所”に集約する
紙は月別ファイル、電子は月別フォルダでOK。せどりなら「仕入れ」「送料」「手数料」「梱包材」などカテゴリを揃えると、翌年以降が劇的に楽になります。
「300万円超えたら保存義務」といった話だけでなく、調査や問い合わせが来たときに説明できるかが実戦です。迷ったら捨てない。
3)副業用の口座・カードを分ける(最強の時短)
入出金が生活費と混ざると、年末に仕訳が地獄になります。可能なら、
- 副業用の銀行口座
- 副業用のクレカ/デビット
を分けて一本化しましょう。これだけで「説明力」が上がり、区分の議論もしやすくなります。
4)開業届・青色申告は“整ってから”検討する
開業届や青色申告の申請は便利な反面、要件・期限があります。
安全な順番は、帳簿と証憑 → 継続運用 → 実態の説明 → 必要なら手続きです。
不安なら、税理士相談(スポット相談でもOK)で「今の実態だとどっちが無難か」を確認すると事故が減ります。
よくある失敗5選と回避策(ブロガー・せどり共通)
失敗1:帳簿ゼロで、年末に売上だけかき集める
経費が説明できず、結果的に税負担が増えたり、申告の信頼性が下がります。
回避策:月1回でいいので、売上・経費・証憑をセットで整理する。
失敗2:「開業届=事業所得確定」と思い込む
実態が弱いまま事業所得で申告すると、否認の火種になります。
回避策:先に継続性・規模・帳簿の整備を作り、説明できる状態にする。
失敗3:赤字にしたい一心で私用を経費に混ぜる
税務リスクが跳ねます。
回避策:口座・カード分離+「これは何の業務か」メモを残す。
失敗4:プラットフォーム明細を保存していない
ASPやモールの管理画面は、仕様変更や表示期限で追えなくなることがあります。
回避策:月次でCSV/PDFを保存し、帳簿と突合できるようにする。
失敗5:区分を毎年コロコロ変える
「去年は雑所得、今年は事業所得」などは、実態の変化を説明できないと不利です。
回避策:変えるなら「作業時間」「売上推移」「改善活動」「帳簿体制」など、変わった事実を整理してから。
具体例:会社員副業が伸びてきた人の“安全な進め方”
例として、会社員のBさんを想定します。
- 平日は会社員、夜と週末にブログ運営
- 月の売上が数万円→数十万円に伸びてきた
- 外注やツール費も増え、収支の管理が追いつかない
- 「事業所得にして損益通算したい」が頭をよぎる
Bさんがまずやるべきは、区分の結論を急ぐことではなく、次の順番です。
- 副業用口座・カードを分けて、入出金を一本化
- 月次で「売上根拠(ASP明細)」と「経費証憑(領収書・請求書)」を保存
- 毎月の作業時間、改善施策(リライト・導線改善・分析)をメモ
こうして事業性を説明できる材料が揃うと、「雑所得で安全にいくか」「事業所得として整えるか」の判断がしやすくなります。
逆に、材料がないまま区分だけ事業所得に寄せるのが一番危険です。
まとめ:チェックリストと次にやること
雑所得と事業所得は、開業届の有無で決まるのではなく、継続性・反復性・営利性・規模・帳簿書類の整備といった実態で総合判断されます。
特に、赤字の損益通算を狙って安易に事業所得で申告すると、後で雑所得と否認されて修正申告や追加納税、状況によっては加算税・延滞税のリスクが出るため注意が必要です。
迷ったら、まず実務(帳簿・証憑・口座分離)を整える。これが一番のリスク対策です。
すぐできるチェックリスト
- 売上の根拠(ASP/モールの明細、振込履歴)を月次で保存している
- 領収書・請求書・決済明細を「月別」に保管している(紙でも電子でもOK)
- 売上・経費を日付/内容/金額で記録している(スプレッドシートでOK)
- 副業用の口座・カードを分ける(または分ける予定がある)
- 継続性(作業頻度)と改善活動(何を改善したか)をメモしている
- 区分を変えるなら「変わった実態」を説明できる
次にやること(3ステップ)
- ステップ1:副業の入出金を整理する(口座・カード分離/明細の月次保存)
- ステップ2:帳簿の型を作る(売上・経費・証憑の保存場所を固定して運用開始)
- ステップ3:売上が伸びてきたら、事業実態の整理シートを作り、必要に応じて税務署・税理士に相談して区分を固める
